『思想』2020年3月号に寄稿しました

『思想』の特集「フェミニズムI−−身体/表象」(No. 1151、岩波書店、2020年)に「『省略』に抗う−−障害者の性の権利と交差性」を寄稿しました。

構成は以下のとおり。

1 複数の「省略」
2 障害者を性の領域から遠ざけるバリア
3 「普通の女性」と同じことをする
4 「身体の快」を探る
5 性の権利の複数性・複合性

この論文は2008年に執筆した研究ノート「女性障害者のセクシュアリティ論のために」を発展させようとしたものです(…が、実際にはあまり発展させられず、2008年のものと重なる部分が多いです)。

新たに付け加えた論点は、以下の4つ。

1)1990年代後半、障害者の性に学術的な関心が寄せられた背景に、女性に対する暴力や性的マイノリティの権利の文脈で議論された「性の権利」の広まりがあった。
2)私的領域においてプライバシーを確保しにくいという問題と公的領域に存在する物理的障壁が重なることで「プライバシー・イン・パブリック」の創造がより困難になっている。
3)「性的主体」や性的自己の立ち上げは、個人の「内部」で起きるとイメージされがちだが、実は個人の「外部」にある環境(たとえば、性暴力の恐れがないこと等)と切り離し難い関係にある。
4)性に関わる問題(たとえば、性暴力等)が、生活上・経済上の権利とも関連しながら生じたり深刻化する。したがって、障害者の性というテーマをめぐっても、障害者−非障害者間だけでなく、障害者間に存在する不均衡とそれを生み出す力の差にセンシティブな議論が求められる。

障害学とフェミ・クィア領域との接点を示せたこと、また、フェミニズムの視点(とくに上記3)が障害学においても欠かせないと強調できたことはよかったのですが、出来にはまったく満足していません。議論が足りない&クリアでない点については、これから執筆するものの中で取り組んでいきたいと思います。

以下、『思想』2020年3月号全体の目次

思想の言葉 米山リサ
(インタビュー)複数的パフォーマティヴィティとあやうい身体 ジュディス・バトラー
埋没した棘−−現れないかもしれない複数性のクィア・ポリティクスのために 清水晶子
「省略」に抗う−−障害者の性の権利と交差性 飯野由里子
反/未来主義を問い直す−−クィアな対立性と動員される身体 井芹真紀子
異端を包摂する国家−−三島由紀夫と東郷健にみる天皇とホモエロティックな欲望 川坂和義
政治的なことは映画的なこと−−1970年代の「フェミニスト映画運動」 菅野優香
フェミニズムと科学技術−−理論的背景とその展望 飯田麻結
依存者の詩学、あるいは耐え忍ぶ者の透視図 新田啓子
女の戦争とフェミニズム−−三枝和子の敗戦三部作を読む 木村朗子

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