障害者差別解消法における「合理的配慮」

 合理的配慮とはreasonable accommodationの日本語訳です。したがって、合理的配慮の「配慮」とは「心配り」のことではなく「便宜や助け」のこと、つまり障害者の「困りごと」をなくすために行う環境やルールの変更・調整のことを指します。たとえば障害者の中には、紙に印刷された資料しか配布されないことで情報にアクセスできないという「困りごと」を抱えている人がいます。この「困りごと」を解消するため、別の方法(たとえば、電子データや点字など)で同等の情報を提供することが「配慮」です。

 では、こうした変更・調整が「合理的」だとされるのはどのような場合でしょうか。差別解消法では次の三つの条件を満たすことを要求しています。

(1)障害者の個別のニーズを踏まえていること
(2)障害者にとって不利な社会的障壁(「困りごと」の原因となっている社会的要因)を取り除くものであること
(3)事業者に「過重な負担」を課さないものであること

 これら三条件から読み取れるように、合理的配慮の内容は障害者の個別の事情(どのような時に、どのような社会的障壁によって、どのような「困りごと」を経験しているか)だけではなく、事業者の個別の事情(「過重な負担」にならない範囲、つまり無理のない範囲で提供できる「配慮」は何か)も考慮に入れて決められます。このため合理的配慮の内容を特定する際には、障害者と事業者の間で何らかの話し合い(やり取り)がなされることが前提されています。

 そこで差別解消法の基本指針には、次のような注意点が示されている。

(a)話し合いにあたっては、個別のニーズを踏まえて障害者の意思を十分に尊重すること
(b)仮に障害者が希望する配慮が提供できない場合、事業者は話し合いを通じてその他の配慮を提案すること

 こうした説明からわかるように、合理的配慮の提供とは「障害者が希望する配慮を提供すること」では必ずしもありません。実際、事業者側の負担があまりにも大きいと判断される場合には、希望通りの配慮を提供しなくても差別にはなりません。しかしその場合でも、事業者には障害者との話し合いを継続し、「その他の配慮」の可能性を考えることが求められます。  

 重要なのは、障害者の意思を尊重しつつ、彼ら/彼女らが直面する社会的障壁を取り除くことです。それらを行政機関だけでなく事業者の義務にすることで、障害者の社会参加の機会を実質的に保障していこうというのが差別解消法なのです。

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