Hollander, Edwin. P. (2009). Inclusive leadership: The essential leader-follower relationship. New York, NY: Routledge.
エドウィン・ホランダーはアメリカ合衆国の社会心理学者。『インクルーシブ・リーダーシップ』の第1章は、ネット上で公開されている。書評はこちら。2008年に公開されているこちらの資料もコンパクトにまとまっており、参考になる。
日本でも、ビジネス系のサイトで「信頼蓄積理論(Credit Accumulation Theory)」とともに紹介されていたりする。ただ、ホランダーの理論や議論の全体像をふまえないまま、部分的につまんで紹介した解説ばかりなので、注意が必要。
ホランダーの議論の特徴は、リーダー(上司)とフォロワー(部下)の関係性に着目する点にある。既存のリーダーシップ論は、リーダー個人の資質や行動特性等に焦点を当てがちなので、この点で、ホランダーの前提は既存の議論とは異なっている。
たとえば『インクルーシブ・リーダーシップ』の冒頭で、ホランダーは、ILは「相互の利益のために何かを達成することができる関係性」であり、「人びとに対して何かをするのではなく、人びとと共に何かをすること」であると述べている。彼にとって、リーダーとフォロワーの関係は「相互協力の関係(a two-way street)」であり、その意味で「リーダーはフォロワーでもあり、フォロワーはリーダーでもある」。
では、リーダーとフォロワー間で相互協力の関係をつくり出していくためには、何が必要か。「他者が真の意味で参加する『インクルーシブなプロセス』」を生み出していくために鍵となるものは何か。
最も重要なのは「傾聴(listening)することで、他者を尊重(respecting)し、他者と関わる(involving)ことだ」とホランダーは述べる。また、別のところでは、インクルーシブ・リーダーシップは、他者を尊重し(Respect)、他者の貢献を承認し(Recognition)、積極的に耳を傾ける(Responsiveness)ことから始まるとも述べる。そして、ここに、双方向の責任(Responsibility)が継続的に存在している必要がある。
したがって、インクルーシブ・リーダーシップの基礎は、
- 意思決定における力の分有(Power Sharing)
- 倫理とモラル
にあるということになる。
1点目は、第11章で焦点があてられている。あわせて、Hollander & Offermann (1996) も重要だ。ただ、意思決定への参加は常に有効なわけではなく、特定の環境要因との関係で有効となるという先行研究(Vroom & Jago 2007, p. 21)もあるので、ここは注意が必要。
2点目は、第14章で議論される。
補足として。第8章で出てくる the Globe Research Program (House, Javidan, Hanges & Dorfman 2002) はいつか読んでおきたい。これは、900の組織に属する17,000人を対象に、リーダーシップ特性の文化差を調べた調査のようだ。それによると、文化横断的に存在する21のポジティブな特性と8つのネガティブな特性が特定された一方で、35の特性については文化差が大きかったようだ。この調査は、日本の企業組織とそこで受け入れられているリーダーシップのあり方を知る上で役に立つかもしれない。
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