塩原良和「多文化共生がヘイトを超えるために」

多様性との対話−−ダイバーシティ推進が見えなくするもの』(岩渕功一編著 青弓社 2021年 pp. 59-67)所収。

本論は、とりわけ2000年代以降の日本における多文化共生理念および施策の変遷の概要。なお、多文化共生理念が登場・変化していく国内的・国際的背景については、塩原良和さんの『共に生きる-多民族・多文化社会における対話(現代社会学ライブラリー3)』をあわせて読むと理解が深まる。

要約

 2000年代半ばの日本における多文化共生施策は、日本人/外国人の文化本質主義的二分法を前提とし、日本の言語・文化を教えることで外国人の「自立」を支援することに重点を置いていた(=「自立支援」型多文化共生)。この意味で、パターナリズムにもとづく施策だったといえる。2010年代以降、このパターナリズムは批判され、代わりに外国人の経済的・社会的メリットが強調されるようになった。その結果、多文化共生理念に、日本社会に適応し、日本社会にメリットをもたらす外国人だけを受け入れるという論理が加わった(=「自己責任」型多文化共生)。その裏面で、コストや脅威と見なされる外国人を積極的に排除するショービニズム(排外主義)が正当化されている。つまり日本の多文化共生理念は、外国人の文化的差異の承認とその権利の保障という観点を大きく欠いたまま、「排除」が「共生」をもたらすという論理を強めている。

さらなるリサーチ・検討・整理が必要なポイント

  • 2010年代以降の多文化共生理念に変化をもたらした国内的・国際的背景とは?
    • 「一億総活躍社会」「UD2020」との共通点と相違点
  • ヨーロッパの「インターカルチュラル・シティ」概念
  • 福祉ショービニズム(排外主義)

メモ

〜1990年代半ば

  • 多文化共生理念=異文化理解/コミュニケーションに偏重する傾向

2000年代

  • 地域における多文化共生=「国籍や民族などの異なる人々が、互いの文化的ちがいを認め合い、対等な関係を築こうとしながら、地域社会の構成員として共に生きていくこと」(2006年3月 総務省『多文化共生の推進に関する研究会報告書』)

「国籍や民族などの異なる人々が」

  • その後の施策で「日本人と外国人が」と解釈
  • →「外国人」を「日本人」と異なる文化をもつ人々として明確に区別(=文化本質主義的な二分法)
  • →多様であるはずの外国人住民が同質な集団として表象。多様であるはずの非外国人住民(帰化者、国際結婚家庭とその子ども、先住民族としてのアイヌや琉球・沖縄の人々など)が「日本人」とひとくくりに
  • ⇨日本人は同質的な「単一民族」だという固定観念と「多文化共生」理念が併存
  • 外国人住民が直面する困難の原因を個人・集団間の「文化の違い」とコミュニケーション不足に短絡し、経済的・社会的な不平等の存在を軽視・無視する傾向が温存

「対等な関係」

  • 実際の施策では、外国人が行政に依存せず、地域社会で「自立」して生活できるようになるための「支援」が強調
  • =「外国人が自立できるように」「日本人が支援してあげる」という「自立支援としてのパターナリズム」の論理
  • →定住外国人の権利や主体性、とりわけ文化的権利を保障する要素が希薄

2010年代

  • 法務省「外国人材の受入れ・共生のための総合的対応策」2018
  • ⇨ 1)外国人住民の自己責任の論理の強化
    • 「外国人もまた、共生の理念を理解し、日本の風土・文化を理解するように努めていくことが重要である」(「総合的対応策」)
  • ⇨ 2)「排除」の論理の強化
    • 「不法滞在事犯」「偽装滞在時犯」の取り締まりの強化
    • 「濫用・誤用的な難民認定申請」の抑制
  • →非正規滞在者の取り締まり強化や難民申請者への厳格な対応が「共生」施策の一部として語られるように
    • 排除が共生をもたらすという論理
    • 「コストと脅威をもたらす外国人」を排除することで、「経済的・社会的メリットをもたらす外国人」との共生を実現
    • 「税金や社会保険料を納めない外国人は積極的に排除すべき」という論理=福祉ショービニズムの論理

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