Silverman A. M., Gwinn J. D. & Van Boven L. 2015, ‘Stumbling in Their Shoes: Disability Simulations Reduce Judged Capabilities of Disabled People,’ Social Psychological and Personality Science, 6(4), 464-471.
障害疑似体験が障害者が日常的に直面する困難を理解するにあたってあまり有効な手法でないことは、すでに多くの論者によって指摘されてきた。そのひとつに、 疑似体験では、障害者が人生全般にわたる期間を通じて累積的に経験する社会的・心理的困難を理解できないという批判がある。たとえば、福島智は『盲ろう者とノーマライゼーション−−癒しと共生の社会をもとめて』(明石書店、1997年)で、疑似体験の問題点として、障害の多様な状態を再現することが技術的に困難であること、短時間の体験と固定した状態との間には質的な差異があること、障害の可変性(症状の不安定性や進行)を体験することが困難であることなどを指摘している。
本論文の特徴は、障害疑似体験は「あまり有効でない」どころか、障害者に対する態度変容において有害となる可能性を指摘している点にある。コロラド大学ボルダー校の学生を対象に実施した実験から、著者らは、障害疑似体験は、心身機能の一時的な制約により自分ができないと感じた体験、難しいと感じた体験を中心に置いて、障害者が日常的に直面する困難を想像し理解することになるため、障害者の能力を低く見積もる効果をもつと結論づける。
私たちは、他者の困難について、自分の体験をもとに考え、想像し、評価しがちである。そこには、ある種の「自己中心性」が働いている。多くの場合、そこに悪意はないだろう。だが、そうした「自己中心性」により、他者の困難に対する私たちの理解は常に偏りをもち、時にそれが差別を助長する。本研究は、私たちがもつこうした偏りとその害を、実験結果を通して明らかにした点で重要だといえる。
なお、以下の記事には、論文の概要だけでなく、筆頭著者のArielle Silvermanさんがこの研究をしようと思った理由も書かれてあり参考になる。論文とあわせて読んでほしい。
Taking sightlessness for a spin can harm people’s attitudes toward blindness (Science Dairy, 20150114)
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