ハンマーたちのアフィニティ

著者
Ahmed, Sara
原題
An Affinity of Hammers
出典
TSQ: Transgender Studies Quarterly 3(1-2), 22-34
発行年
2016

論文の内容

トランス排除的ラディカル・フェミニストたちによる「トランスフォビア」という言葉は、フェミニストによる批判的な発言を封じ、検閲するために濫用されている」という主張を批判的に検討した論文。

この主張に対して著者は、トランスフォビアこそが一つの「反駁システム」として働いていると論じる。それは、トランスの人々に対して「自分が存在することの証拠を出せ」と際限なく迫るシステムである。そしてそれは、当事者にとっては、ハンマーで何度も打ちつけられる経験、自らの存在が少しずつ削り取られていく経験として現れる。

だからこそ、フェミニズムの内部にあるトランスフォビアは、「シス特権」との関係のなかで理解されなければならない。シス特権とは、この打撃に触れずに済むということだからである。

そのうえで著者は、「ハンマーたちのアフィニティ(親和性)」に希望を見出す政治のモデルを示す。つながりとは、あらかじめ与えられているものではなく、システムを削り取っていく作業そのものを通じて獲得されるのだ、と。

補足:原文は hammer を二つの向きで使っている。トランスの存在が「叩かれ、削られる」側面と、同じハンマーで抑圧のシステムの側を「削っていく」側面である。訳では「打つ/削る」という語を両方に使い、この重なりが残るようにした。

Sara Ahmed | You are oppressing us! (20150215)

メモ:

affinity は「似ているから引き合う」という意味と、「血縁ではなく選択によって結ばれる関係」という意味の両方を持つ。後者はダナ・ハラウェイが「アイデンティティではなくアフィニティを」と論じて以来、フェミニズム理論では定着した用法である。アハメドの議論も「同じ属性だから仲間なのではなく、同じ作業をするから仲間になる」という方向でこの言葉を用いている。

また、トランス排除のフェミニストらが用いる“gender critical”という立場は、トランスの活動家は“gender_un_critical” なのだという含意を持つ。つまり、gender critical feminismはトランスの価値の引き下げを行うことで、自らの価値を高めようとするために使用される用語(フレーズ)である。(223, 229)